今回はよくある、『どうすればお金を沢山かせげるかの?』という話ではない。
むしろ逆で、人間がどうしてお金に関する判断をミスるのかと言う心理学の話。
【参考文献】
1.お金のバイアスに囚われて損する人
『お金のバイアスにとらわれて、損する人と得する人の違いは何なのか?』
人間がお金で人間関係を失敗する事は往々にして起こり得る事だ。
だが、お金に“ぎすぎす”するのは基本的にはみんな嫌だと思う。
では、“ぎすぎす”しないで正しくお金を使うにはどうすればいいのか? 無駄遣いを減らし、お金にとらわれる事をなくすにはどうすればいいのか?
前提として、お金で人間が変わる事が確かにある。だがそれは、
- 人間がどういう時に変わるのか?
- どういう風にお金を付き合うとよくないのか?
- 逆にお金とどう付き合うべきなのか?
を知らないとそうなりやすい。
つまり “お金との付き合い方は、自分の心理との付き合いかた” と言えるのだ。
例えば、お金を稼ぐと幸せになると思う人は多いが、“イースタリンの逆説” でよく言われるのは、『お金を稼いでいくと幸福度は上がっていくが、この幸福度の上昇は一定の所を過ぎると横ばいになる。』です。
つまり、お金を稼いで幸福度が上がっていったのに、途中から上がらなくなり、その結果、更にお金を沢山使う様になり、破産しやすいのが年収800万円から1,000万円の間と言われている。
では、その理由は何なのか?
実は、『それが何故か?』と言う事が分かっている。
人間はお金を沢山稼げば稼ぐほど、孤独を愛する様になる。
一人の時間が欲しくなるのだ。
実際に、お金を持っていなくても、札束を見せたり、お金について考えただけでも、無意識に人間は人との付き合いや、人とのアクティビティを好むのではなく、一人でするアクティビティを好きになったりする事がわかっている。
つまり、お金を稼げば基本的には収入の増加に伴い、正比例して幸福度も増えていくのだが、お金より幸福をもたらしてくれる人間関係を疎かにしてしまい、結果、お金からメリットが得られなくなる。
と、言う事はどういう事かと言うと、人間関係の作り方や友達の作り方と一緒にお金との付き合い方を学ぶことが大事になる。
お金と上手に付き合う方法というのは、お金が人間の心理にどのような影響を与えるのかということを知ることが唯一の方法なのだ。
更にこれにより、破産を防いだり、無駄遣いを防いだりすることができるようになると同時に、チャンスを逃したり、余計なところにお金を使ってしまうことを防ぐことができるようになる。
2.相対思考

『相対思考の罠から脱出すればお金が貯まる。』
みなさんは、こういう経験ってないですか?
例えば
200万円の車を買おうとして、オプションが付いて210万円になってしまいました。
一方で、ビデオカメラを買おうとした時に10万円のビデオカメラと20万円のビデオカメラが候補としてあるとします。
どちらも差は10万円なのに、車を購入する場合はあっさり、購入の意思決定ができ、ビデオカメラの場合は『うーんどっちにしよう?この差はデカいぞ!』などと言いながら、購入を迷ったりする。
つまり、もともと買うものの金額に応じて、オプションや割引の金額が大きく見えたり小さく見えたりしてしまうのだ。
違う例えとして、
コインパーキングを利用するとします。
すぐ近くに1日2,500円で停められるパーキングがあり、10分歩いたところには1日1,000円で停められるパーキングがありました。
そうすると、ほとんどの人は10分歩いて1,000円のパーキングに停めようとする。
ところが、車を買おうとするとします。
目の前のディーラーで買うと1,002,500円で、10分歩いたところにあるディーラーで買うと1,001,000円の同じ車があったとしたら、ほとんどの人は目の前のディーラーで買おうとしてしまう。
大きい買い物をする時には人間は買い物の意思決定が甘くなり、10分歩いてその差は1,500円というのはまったく同じなのに、それをしなくなってしまう。
10分歩くという合理的な判断ができなくなってしまうのだ。
この様に、高額な買い物では、付属コストや端数に無頓着になってしまうことが分かって、これを相対思考と言う。
この相対思考と言う考え方は色々な事で起こる事が分かっている。
例えば、旅行会社を利用するツアーなどもそうと言える。
また、相対思考は時間に対しても起きる事がわかっている。
よく、スーパーの広告を見ながら1円でも安い野菜を探している主婦を見て時間の無駄だなと感じる方がいると思う。
だが、これが航空券になるとそんな人達も同じことをやっていて、格安航空券を探すためにネットに張りついてずっと検索していたりするのも結局は同じなのだ。
一方、節約の話で、年間数万円の節約になるかも知れないのに、日本人がしていないことがある。
それは光熱費の削減。
日本でも数年前からエネルギーが自由化されたが、電気会社やガス会社を乗り換える人は殆どいないそうだ。
これは現在世界各国で同様に自由化が行われ始めていて、国により違いますが乗り換えたのはたったの1~10%程度。
年間数万円の節約になるかも知れないにもかかわらずそれはせずに、他では1円でも安いところを探したりしている。
このような矛盾が起きるのが、下記の心理会計と言う考え方。
3.心理会計

人間は使うこのにより“心のお財布”が別れている。
その理由は、人間には心理会計という考え方で心のお財布が分かれているのが理由。
例えば、お酒であれば、おしゃれなお店に行ったときには自宅で飲むときの3倍ぐらいするような値段でお酒も飲んでしまう人も多いかと思う。
自宅で飲む時の酒代は、自分の心の中の普段の食費の財布から出ていて、お店で飲むときには心の中の外食費の財布でちょっと贅沢も許してしまうのだ。
心理会計の違いにより、同じものなのに、高い出費を自分に許してしまうようになる。
同様に、旅行に行った時もレジャー費と考えて、ついつい余計な出費をしてしまうと事も多いかと思う。
このように、人間は心理的なお財布が分かれているので、これをちゃんと意識していないと、いつの間にかお金がないということが起きてしまう可能性があるのだ。
ダニエル・カーネマンのチケット実験
ここで、読者の皆さんに心理会計を実感してもらう為に、行動経済学者のダニエル・カーネマンのチケット実験を紹介します。
皆さんが、好きなアーティストさんなどのショーやライブに行く時を想像してください。
そして以下の2つのパターンの意志決定をして下さい。
【1つ目の質問】
皆さんは16,000円のチケットを買って会場に行きました。
ところが、会場に行ってチケットがないことに気が付きました。
この時に当日券を買いますか?
ダニエル・カーネマンの行ったアンケートによると買うと答えた人は10%だけだった。
【2つ目の質問】
皆さんは会場に行きました。
もともと当日券しか無いライブだったのでチケット代として別に用意していた16,000円を落としたことに気が付きました。
チケット代とは別にしたお財布を持っていた為、チケットを買うお金はあります。
皆さんはチケットを買いますか?
この場合のアンケート結果では、50%以上の人が買うと答えた。
お金のプラスマイナスでは同じ状況にもかかわらず判断がこんなにも変わってしまうのである。
実際の実験ではオペラなどのシアターのチケットを使っているので、日本でライブに行く感覚とは違うと思うが、買うか買わないかの判断する場合の感覚が違うという違和感には気付いていただけると思う。
これが心理会計なのだ。
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4.損失回避の心理
“人は基本的には損をしたくない”
人間は基本的に “得をしたい” と言う気持ちよりも “損をしたくない” と言う気持ちの方が大きい。
人は失う事を恐れるため、お金を使ってもっと稼ぐよりもずっと握りしめて離せなくなる。
これは、お金や価値が減らない物の場合はOKの事ではあるが、例えば、株などではお金の価値が減ったり、物では型落ちで物の価値が減ったりする。
トレーダーの方などで損切りが下手な人もこれに該当するのだが、それは損失回避の心理が原因として大きい。
ダニエル・カーネマンが行ったコイン投げ実験
これは心理会計でも出てきた、ダニエル・カーネマンが行ったコイン投げ実験の紹介です。
あなたがコイン投げをするにあたり10万円を貰いました。
そして、以下の2つの選択肢を提示をされたと仮定します。
- コインを投げなければ、この10万円が無条件で手に入る。
- コインを投げ、表が出たら、20万円が手に入り、裏がでたら何も手に入らない。
さて、あなたはどちらを選ぶでしょうか?
そう、おそらく高い確率で
①の無条件で10万円が手に入る方を選ぶと思います。
では、また違ったシチュエーションにおいて考えてみます。
同じくコイン投げにおいて、「あなたは既に20万円の借金」を背負っているものと仮定します。
その上で、
- コインを投げなければ、無条件で借金のうち10万円が減額される。(実質残りの負債が10万円になる)
- コインを投げ、表が出たら借金の20万円全額が免除される。(ただし、裏が出たら、借金額は変わらず20万円のまま)
さて、あなたはどちらを選ぶでしょうか?
ほとんどの方は、
②の負債全額免除にチャレンジするはずです。
しかし、よく考えてみれば最初のケースでも、2番目のケースでも
「①の選択を選ぶことで、無条件に10万円得することができる」
ことは変わらない。
何故こういう結果になったのか?
答えは人間の潜在的な心理が関係している。
つまり、これが“損失回避”の心理です。
何度も言うが、損失回避の一番のポイントは、
『損をしたくない思いは得したい思いよりも強い』
と言う事です。
人間は、
「得をする選択よりも、損をしない選択を好む」
という事実が、先ほどの実験結果を始め、
行動経済学の世界では定説である。
また、カーネマンらの研究によると、この損をしたくないと言う心理は、得したいと言うしんりよりも “2倍も強い” とのこと。
これを “プロスペクト理論” またの名を、『損失回避の心理』と呼ぶ。
・一度保有したものを手放したくない心理「保有効果」
・変化を拒み、今のままでいようとする「現状維持バイアス」
といった言葉も同じく、損失回避の枠組みで語られることが多いと思う。
結果、人間は損をしそうだと思うとリスクをとるが、得をしそうでもリスクを取れない(そこまでのモチベーションがない為)。
なので、怖いセールストークとして、
これをやらないと損ですよ!・チャンス逃しますよ!・勿体ないですよ!と言われると人間はリスクを取りやすく、訳の分からない選択をしやすくなる。
つまり僕たちは、作為・不作為は別として、相手にとって結果、損になることをやり過ぎてしまうと、皆さんの元から人が離れて行ってしまうと言う事が起こり得るのである。

5.後悔回避
“確率が低い損”の為に“確率の高い得”を逃す。
オランダのティルブルフ大学の研究
オランダのティルブルフ大学で以下の様な実験が行われた。
15ユーロの図書券が当たるくじで、番号をみて、他の人のくじと変えてもいいとする。
お互いに自分の番号を見ている状態で、この段階では、まだどれが当たりか分かんない状態。
そして、交換したい人が、交換してくれたらペンを一緒に付けるなど何かおまけして付けるとします。
それにより、どのくらいの人が交換したかと言えば、自分の番号を見た状態で交換してくれたのは56%だった。
それが、逆に自分の番号を見ていない状態では、ほとんどの人が交換してくれたのだ。
どういう事かと言えば、
自分の番号を知っていても、交換した時点ではどれが当たるか分かっていないので、交換しても当たる確率は変わらない。
しかも、交換すれば、おまけがついてくる。それにもかかわらず、交換した人は56%。
が、自分が番号を知らない状態であれば、ほとんどの人が交換する。
つまり、これが後悔回避の働きで、自分の番号を知っている状態では、もし仮に当たっていたら後悔する気持ちが働いて、逆に知らない状態では、自分の番号が当たり番号だったかも分からいので後悔が起きないのである。
また、同じくオランダでは、先の損失回避と後悔回避を組み合わせた、悪魔のくじ「ポストコード・ロッテライ」が大人気。
このポストコード・ロッテライは、「自分の住所の郵便番号が、宝くじの当選番号となる」宝くじ。
皆さんも、もちろん自分の郵便番号は知っていますよね。。。
「もし自分の郵便番号が当選だったら。。。」
買わなかったことによる、損をしたくないという心理、損失回避の心理が働くことに併せて、郵便番号はみんな知ってるがゆえの後悔回避も働き、売れまくっているそうです。
例えとしての宝くじの他にも、後悔回避の特徴が表れているものとして、保険などもこの心理が働いているものの特徴だと言える。
滅多に起こらないバイアスと言われ、僕たちは将来ガンになったり、骨折したり、病気をしたり事故をしたり。。。そんなリスクは現時点では分かんないですよね?
実際に僕もそうですが、でもそれらが起こってしまったと考えた時の恐怖や、それらが起こってしまい、保険に入っていなかった時に感じる後悔のリスクを恐れ、保険に入る。
つまり、それらもある意味、損失回避と後悔回避に訴えかけているものと言う事ができ、良い悪いの話ではなく、それに働く心理学がこの様なものだと言う事なのだ。
なので僕たちはお金に関しても “自分の心理との付き合い方” を学ぶ事で “冷静なお金との付き合い方” が出来るようになるヒントとなるのだと思います。
本日もあなたの時間を投資していただきありがとうございました。